T・Kさん 29歳男性 会社員
居住:愛知県
学歴:大学卒
家族:妻、息子
家族構成:祖父、祖母、父、母、兄
年収:400万円
世帯年収:800万円
父の影響でPCに興味を持つ。学生時代は出会い系にハマる日々
– 現在のお仕事は?
新卒で就職した会社で6年目、工場の機械を扱うSEです。
– SEになられたきっかけは?
父の影響ですね。仕事はPCとまったく関係ないのですが、ある日突然買ってきて。毎日、真っ黒な画面と向き合っていました。新しもの好きで、70歳近い今でもiPhoneを使いこなしています。私はゲームとネットばかりやっていましたが。
– インターネットではどんなことを?
当時はまだ従量課金制だったので、メル友作ったりですね。中学生くらいでISDNが出てきたので、出会い系にハマりました。
– 出会い系とは?
その頃、ヤフーチャットがすごい流行っていたんです。地域別、年齢別にチャットルームがあり、女の子を見つけてはPM(プライベートメッセージ)をポンポン投げるのが当たり前でした。当時の人はみんな気さくで、返事もほぼほぼ返ってきましたね。会おうと言えばすぐ会えるし、携帯番号もすぐ教えてくれる。すっかりハマって、そればかりやっていました。
憧れの同級生と結婚。浮気もしたが、今では息子にも恵まれた暮らし
– ご結婚はいつ頃?
25歳です。奥さんは大学の同級生で、友人を介して仲良くなりました。私が言うのも何ですが、かなり可愛かったので、彼氏がいるという噂があって。しかし2年生の夏休み前に、どうやら別れたらしいという噂を聞いて、思い切ってアタックしたんです。
でも後で聞いてみたら、最初から彼氏なんかいなかったんです。彼女は、自分に興味ないと思っていたらしく、「聞いてよ!」なんて怒られました。それから風のウワサは信じないことにしています(笑)
– 25歳は、最近では割と早いですよね。
そうですかね。地元が田舎なので、むしろ遅いかもと思っていました。
– もう少し遊びたいな、とは思いませんでしたか。
お痛して怒られたことはあります。まぁ、いわゆる浮気ですね。私、ウソを突き通せない性格なのか、隠せばよかったのに自分から言っちゃったんですよ。「すみません、やっちゃいました」って。
そうしたら奥さん怒って、もう別れますと。その時になってようやく、あの子がいないと駄目だと思いました。なので、もうその日の夜には電話して謝って。すぐに許してはくれませんでしたが、毎日電話したり会いに行ったり。もうあんなマネは二度としません。
– お兄さんとあまり仲が良くないとか。
昔は私が兄を嫌いでした。兄は学生時代、バレンタインに紙袋いっぱいチョコレートをもらってくるくらい、すごくモテて。同じ中学校に入ると、兄の評判で私も噂になるくらいでした。でも全然似てないじゃん、みたいな。
しかし、長男を差し置いて先に結婚し、さらに息子も生まれたので、立場が逆転したように思います。田舎なので、後継者というか跡取りみたいなのが私に移ったといいますか。それ以来、今は兄が私を敬遠している気がします。やっぱり長男の自負みたいなものがあったのだと思うんです。私が結婚する頃にはあまり家にも帰ってこなくなり、家族とも距離を置きはじめました。私の立場から「オレはそれわかってるよ」なんて口に出す訳にもいきませんし。
マルチ商法にハマり、1,000万円を失う。睡眠1時間の日々
– 人生で一番辛かった経験を教えてください。
3年ほど前、マルチ商法にハマったことです。友人もお金も失いましたね。
– どんなマルチ商法ですか?
商品を売買するのではなく、「権利譲渡」というタイプです。「○○を体験できる権利」みたいな。それが売れればマージンをもらえる。まぁ結局ねずみ講ですよね。
– 利益はあったのでしょうか。
運悪くというか、あったんです。2年間で4~500万円くらい儲けました。
– はじめたきっかけは?
サラリーマンとして、収入面に不満があって。転職や独立も考えましたが、どうすれば独立できるのか検討もつきませんでした。それで自己啓発本なんかを読むと、とにかく人と会いましょうと書いてある。それを実践していたら、あるタイミングで出会って。夢の様な話だと思ったのがきっかけです。
– 怪しいとは思いませんでしたか?
まったく思いませんでした。やっている間も、本当にみんなが幸せになれる仕組みだと信じていました。
– 具体的に、どうやって活動をするのですか?
本職の仕事を終え、夜は勧誘をします。だいたい12時くらいになるのですが、それから朝の6時くらいまで「ネットワーク会議」というミーティングをするんです。
– どんなミーティングなのでしょうか。
ロールプレイングですね。どう見せるか、どう伝えるか、話し方の練習です。1時間仮眠して、次の日仕事に行って。それが半年くらい続きました。その頃は車でしょっちゅう事故りましたね。警察のお世話にはなりませんでしたが、100回くらいどこかにぶつけました。
– やめようと思ったきっかけは?
マルチ商法って、「わからないことがあったら聞いてくれ、全部話すから」というスタイルなんですよ。信用を得るために。でもその頃には、質問すればするほど、妙な回答になりました。徐々に納得できなくなり、あれおかしいぞと。そうなるともう駄目ですね。日が経つほどに、これってただのねずみ講じゃんと思うようになりました。そうなると、人にも伝わらないですよね。自分ではねずみ講だと思っているものを、「ねずみ講じゃない」なんて勧誘しても。
– それまではねずみ講とは思っていなかった?
はい。実際、法的にはねずみ講ではなかったですしね。本当にいいものだと、みんな幸せになれると思っていました。
– それにより、何を失いましたか。
まずお金です。4~500万円売り上げても、出て行く方が圧倒的に多かった。「稼いでる感」を出さなければいけないので、ブランド物の服やバッグを買い漁り、勧誘時の交際費も重なって、結局1,000万円くらい損したのではないでしょうか。
あとはやはり友人ですね。人間関係はもうズタボロです。
– やはり友人から誘うものですか?
そうですね。そう指示されます。
– 友人はどういった反応をしましたか。
田舎だったので、詳しくない人ばかりでしたね。なにそれ、みたいな。ただ、悪い噂はあっという間に広がるもので、もう地元の友人は口もきいてくれません。メールも電話も無視ですね。覚めた今となっても弁解もできませんし、できることなら地元には帰りたくないです。同窓会なんて絶対に行けませんよ。
– マルチ商法にのめり込みそうな人に、何かアドバイスありますか。
世の中そんなに甘い話はないんですよ。なので、いい話しか出なかったら疑えと言いたいですね。
ただ私自身は、すべてが悪いとはいまだに思っていません。
– といいますと?
勧誘した相手に罪悪感があるかといえば、実はないんです。マルチ商法では、口酸っぱく「すべて自己責任」と言われるのですが、それは今も思っています。結局、自分の身は自分でしか守れませんから。たしかに、私が勧誘したことで借金したり、人生壊したかもしれないけど、それは自分で決めたこと。今もそういう考えで、申し訳ないとは思ってないんです。
変な言い方ですが、たとえ1,000万円損しても、マルチ商法には感謝すらしています。考え方も変わったし、今の仕事にも活きているなと。あれ以来、上司からの評価も上がり、周りからの印象もよくなりました。かっこよくなった、オシャレになったと言われます。服装だけじゃなく、内面から変わったような気がしますね。
Photos by Evgeniy Isaev / Francis Storr / Simply CVR