S・Sさん 50歳女性 個人事業主(ナレーション業など)
出身:兵庫県
居住:大阪府
学歴:高校卒
家族:独身
家族構成:父、母、姉
年収:250万円

ラジオDJに憧れナレーターへ。しかし散った夢

– お仕事の経歴を教えて下さい。

10代で声の仕事、20代は一般事務、30代になって講師業をはじめ、40代後半から声の仕事に復帰しました。

– 声の仕事をはじめられたきっかけは?

高校時代が深夜ラジオの全盛期で、ラジオDJに憧れていたんです。私が若い頃、声優という仕事はそれほどメジャーではなかったですし。

– 20代で一般事務に転職したのは理由が?

現実的に収入が厳しかったからですね。ただ、知人から声をかけてもらい、土日に結婚式の司会をしたりはしました。10年くらい続けたかな。

– 結婚式の司会の収入はどのくらいなのですか。

1回で3~5万円もらう方もいるのかもしれませんが、私は1万ちょっとでした。拘束時間も長いし、割のいい仕事ではなかったですね。

– ナレーション業特有の苦労とは何ですか。

18~21歳くらいまでは事務所に所属していました。しかしそこで学んだのは、技術より営業力だなと。私、技術はあったんですよ。でもそれより、マネージャーにいかに媚を売って気に入ってもらうかの方が重要でした。いつも「上手いんだから文句ないでしょ」という態度で、仕事終わりに飲み行くのも、雑談するのさえ嫌でした。

今となれば、そりゃそうですよね。私だって、ちょっと下手でも愛想のいい子と仕事がしたいですから。

– ナレーション業での収入はどの程度?

年で10~20万くらいじゃないでしょうか。もちろんそれでは生活できませんから、平日はパソコン講師業を派遣でやっています。

自分に歯向かわない両親を嫌悪。たとえ死んでも何も感じない

– 声の仕事をすると決めた際、ご両親は何も言いませんでしたか。

そうですね。というより、私には何でもイエスという親なので。

– あまり仲が良くない?

はい。姉が親と同居しているので、姉に会いに実家に帰ることはありますが、両親だけなら絶対に帰りません。帰る意味がわからない。

– 何か理由があるのでしょうか。

それがないんですよ。友だちにも、なぜそんなにお母さんに冷たいの、と言われるんですが。おそらく、私に歯向かわないのが嫌なんでしょうね。

– ご両親がSさんに興味がない?

そうではないと思います。子供の頃、姉は親からボロクソに言われてるんです。お前はグズでのろまでっ、て感じで。しかし私はなぜか何も言われませんでした。気がついたら、親が私を怖がって遠慮している感じでした。

– 仮にご両親が亡くなったら、どう思われますか。

何も感じないと思います。よく「あとで後悔するよ」などと言われますが、後悔しない自信はあります。もっと優しい言葉かけておけばよかったかな、とかは絶対思わないでしょうね。

– そこまで思うのはめずらしいですよね。

そんなことないですよ。世の中に現れているのが、親思いで仲良しってパターンだけで、そうじゃない人も半数以上いると思います。親の死を願う本とかあるんですよ。それ読みながら「やっぱそうだよなぁ」と思いますから。

独身に後悔なし。自分のDNAを持つ子供は絶対にいらない

– 現在独身とのことですが、ご結婚されたことは?

ないです。機会がなかったですね。お付き合いした人とも、そういった話にはなりませんでした。

– 結婚しなかったことに関して、思うことはありますか。

今は何も思いませんが、60歳くらいになったら近くに誰かがいたほうがいいのかなと思ったりはします。別にペットでもいいんですが。

– 健康面の心配?

実は最近、更年期障害で参っていたんです。症状は人それぞれなのですが、私の場合、自律神経の乱れでじっとしてられない状態になりました。座ってテレビ見るのも辛い、歩いている方が楽。それに、一人で黙ってると頭の中の会話が止まらなくなるんです。止めるには、独りごとでもいいからしゃべらないといけなくて。だから歩きながらブツブツ独りごと言っていました。

– 子供がほしいと思ったことはありますか?

ありません。自分の子供は絶対にいらないです。自分のDNAを残したいとは思わないですね。

– なぜそう思われる?

なぜでしょう。わかりませんが、若い頃からずっとそう思っています。

– 自分のことが好きではない?

そうですね。

– なぜでしょうか。

それを考えたことがあって、10代の頃、ナレーションの先生に「君はもうナレーションの勉強しなくていいから、代わりに何かを愛しなさい」と言われたんです。植物でも動物でも何でもいいからと。それがずっと心に引っかかっていたのですが、40歳過ぎた頃、別の先生にも「愛がないね」と言われたんです。10代で言われたのと全く同じことを40代で、しかも違う人に言われたのがとても衝撃的でした。それは、元々自分が好きではないからかもしれませんね。

– 一人でいるのを、寂しいと思ったことはないですか。

残念ながらないです。病気した時や精神状態がまずい時に、一人だと物理的に危険だなとは思いますが、誰かに寄りかかりたいう感情はありません。お金があれば、家政婦さんを雇えれば一番いいのですが。

– タフですね。普通は寂しいと感じる人が多いと思いますが。

さっきも言った通り、それは表に出てる情報だけですよ。私のような人もいっぱいいると思います。マイナスになるから言わないだけで。

– 人生で戻れるとしたら、何歳くらいがいいですか。

今までの人生に悔いはないんですよ。間違ったとか、修正したいとか思うことは一切ありません。だから、戻れなくて構わないですね。

Photos by Alan Levine / Connie Ma / Bert Kaufmann